【魅惑のアルジェリア音楽】サハラ砂漠発・トゥアレグの奏でるアフリカン・ブルースへの招待♪
「意外な発見がてんこ盛りな国・アルジェリア」ネタ第2弾です。
最近になってデザート・ブルース(Desert Blues=砂漠のブルース)と呼ばれるサハラ砂漠の遊牧民トゥアレグの音楽にはまってます。
きっかけは、初めて聴いたときにあまりにもアメリカのブルースにそっくり!で驚かされたのがそもそもの始まりです。
アフリカのブルースというと意外な感じですがアーティストのクオリティも高く、知られていない分発見がたくさんあって穴場です。
ブルース好きな方、ぜひアフリカの音楽にも注目してみてくださいマセ♪
サハラ砂漠のブルースへの招待
今回ご紹介するサハラ砂漠発のブルースは、主にアルジェリア、マリ、ニジェールといった北アフリカの国々の砂漠の民「トゥアレグ」のアーティストによるものです。
カルチャーショックを受けるほどの衝撃
砂漠の民といって侮るなかれ、エレキギターやドラムといった楽器も器用に操り音楽のクオリティも欧米や日本に負けないハイレベルです。
でも、砂漠のベドウィンの民族衣装を着た人たちがバンドでプレイする姿を最初に見たときは、かなりのカルチャーショックを受けました^^;
既に欧米では「Desert Blues」とか「Touareg Blues」といった一つのジャンルとして認識されていて、熱狂的なファンもいます。
トゥアレグのアーティストたちも北米やヨーロッパ諸国へのツアーも定期的に行っていて、ジャンルを超えたアーティスト同士の交流も盛んです。
余談ですが、「トゥアレグ」でググるとフォルクスワーゲンのトゥアレグ(SUV車の名前)の記事ばかりが出てきたので不思議に思ってたら、いつの間にか車の名前になっていたんですね^^;
アメリカのブルースと共通するもの
アメリカのブルースとそっくりだったことは冒頭に書きましたが、単に音が似ているばかりではなく、両者の音楽の根底に流れるものも共通するところがたくさんあります。
アメリカのブルースのルーツになったのは、奴隷制時代の黒人の悲しみや終わることのない苦しみを信仰の歌に込めたゴスペルでしたが、アフリカのブルースにもまた同じように、支配者たちに抑圧されて迫害を受け続けるトゥアレグの人々の悲しみが込められています。
長年続く受難の数々
トゥアレグ自身は何世紀も続く外国による統治時代から現在に至るまで、支配者による様々な迫害の歴史を歩んでいます。
もっとも根深い原因と言えるのが、政府による強制的な定住一体化政策です。
長い間広大な砂漠を自由に行き来して暮らしていたのに、ある日突然それまでの生活を強制的に変えられてしまったことが様々な軋轢を生んでいます。
トゥアレグの音楽にはそういった悲しみや行き場のない失望感や怒りといったものが込められています。
天性の才能と音楽に込めたトゥアレグの想い
しかし、「途上国の未開の地」とも言えるような地域からこんなにもレベルの高いミュージシャンたちが大勢登場していることははっきり言って驚異です。
ここで紹介しているミュージシャンたちも電気も通っていないような発展途上国のド田舎で育ち、ヒョウタンや木切れといったあり合わせの材料で作ったお手製ギターを使って独学で覚えたという人がほとんどです。
先進国の子供が高い楽器を買って、スクールや教室に通って楽器を習得していることと較べたら信じがたいことです。
ロバート・プラントも魅せられた音
文化を超えて認められた実力であることは、欧米のミュージシャンとも交流が盛んなことからもわかります。
ロバート・プラント、カルロス・サンタナ、ブライアン・イーノといった大物ミュージシャンたちも砂漠のブルースに魅了されてしまったうちのひとりです。
音的にはエスニック系音楽によくある変なクセやアク、泥臭さといったものは感じさせないシンプルでピュアな音です。
音的なクオリティも高く、初めて聴いても耳に抵抗なく入ってくる音だと思います。
ちなみに「砂漠」のことは英語では「desert=デザート」といいますが、スイーツのデザートも発音が同じなので綴りを間違わないようにしましょう^^;
<間違えやすいので気を付けましょう>
・DESERT・・・砂漠
・DESSERT・・・スイーツ、デザート
<音楽トリビア>
砂漠のブルースは、西洋式のエレキギターやベースギターと共にアラブやトゥアレグ独特の楽器を取り入れて演奏されます。
左のタブラ(パーカッション)は中近東~北アフリカ一帯では一般的な打楽器です。画像のように膝に乗せたり、脇に抱えるようにして叩くことも多いです(インドのタブラとはちょっと違います)。
その他によく使われているのが、西洋のリュートの前身になった弦楽器の「ウード」です。リュートとは形も似てますが、日本の琵琶を思わせるようなところもある楽器です(画像がなくてスミマセン^^;)。
アルジェリアの他にも穴場多し
今回取り上げたアルジェリアの他にも、ニジェール、マリといった国からも有名どころが多数出現しています。
マリからは世界的にも有名なTinariwen(ティナリウェン)が出ていて、近年では早くも彼らに影響を受けた第2世代のアーティストたちが各国から続々と登場しています。
意外にもニジェールが熱い
特にニジェールの音楽シーンは活気があり、有能な若手のミュージシャンが多く出ている印象を受けました。
個人的に注目してるのが、サイケな超絶ギタープレイでファンを魅了する「砂漠のヘンドリックス」の愛称のMdou Moktar(エムドゥ・モクタール)と、かたや「砂漠のサンタナ」の異名をとる渋いギターが売りのBombino(ボンビーノ)です。
彼らもまた国際的な人気のトゥアレグ・アーティストです。
2人については後日またくわしくご紹介したいと思ってます。
とにかくまだあまり知られていないマイナーなジャンルだけあって、意外な「めっけもん」がザクザク発掘できそうな気配です。
しかし、ニジェールやマリなんて日本人には馴染みがなさすぎていったいどこにある国なのか見当つきませんね^^;
ところで、Touareg(トゥアレグ)って誰?
砂漠のブルースを語るうえで無視できないのが、トゥアレグと彼らを取り巻く歴史的な背景や現在置かれている状況についてです。
先住民族でありながら複数の国による植民地統治の時代から現在に至るまで、トゥアレグは受難の歴史を歩んでいます。
そして音楽と同じく彼らの文化も非常にユニークだということがわかったので、ついでにご紹介したいと思います。
知っておけば彼らの音楽にも理解が深まると思うので、つまらないと言わず読んでやってくださいまし^^;
ベルベル人の部族「トゥアレグ」
「ベルベル人」という言葉自体は学校の歴史の教科書にも出ていた記憶があるので、わりと知られているのではないかと思います。
トゥアレグは平たくいうと、マグレブを中心とした北アフリカ一帯に住む先住民族「ベルベル人」の中のひとつの部族の名前です。
アラビア語で「太陽の沈むところ」という意味。
マグリブと呼ぶこともあるよ。
でも場合によってはリビアやモーリタニアも含まれることもあるってことだ。
実は蔑称だった「ベルベル人」という呼称
ベルベル人という名称は現在広く使われていますが、元々は古代ローマ人がつけた「わけのわからない言葉を話す者」という蔑称です。
英語で野蛮人を意味する「Barbarian」もベルベル人に語源があるという説もあります。
そういうわけで、彼ら自身は自分たちのことを「Amazigh=アマジグ人」と呼びます。
そしてアマジグには「Tamasheq=タマシェク」という独特の言語があります。
砂漠のブルースもこのタマシェクで歌われることが多いです。
と同時に、植民地時代からの慣習でフランス語も日常語として通用しています。
アマジグ(ベルベル)にはトゥアレグ以外にもたくさんの部族があり、北米大陸のアメリカ・インディアンのような社会構成に近い印象です。
トゥアレグには首長を中心とした厳格なカースト制度のようなものがあり、支配者の血統は結婚により厳格に受け継がれています。
遠い昔には他部族の集落を襲って物資を手に入れたり、奴隷にするために人を略奪していたこともあったそうです。ワイルドなんですね^^;
地理のお勉強
話を最初に戻すと、アマジグ人はエジプト西部の砂漠地帯~モロッコ全域、南はニジェール川の方までの広い地域に住んでいて、現在の総人口は1000万人以上と言われています。
4000年も前から北アフリカに住んでいて元々は遊牧民族でした。
昔は広い地域を移動しながら暮らしていましたが、現在は集落や都市に定住している人が多いです。
その中でトゥアレグは「リビア南西地方~アルジェリア南部~ニジェール~マリ~ブルキナ・ファソのサハラ砂漠一帯の広い地域」と、少数ですがナイジェリア北部にも住んでいます。
総人口は250万人以上になると言われています。
画像出典元:https://en.wikipedia.org/wiki/Tuareg_people#Clans
トゥアレグ独特の言語は「タマシェク」といいます。
受難の民なのに反政府ゲリラ?!
トゥアレグが受難の歴史を歩んでいることは既に書きましたが、現在でも彼らを取り巻く環境は政情不安で厳しいものになっています。
政府の定住化政策によってそれまで住んでいた土地を追われたり、トゥアレグ独特の文化の放棄を強要されたりといったことが起こっています。
常に紛争の危機にさらされていて、つい最近(2020年)もマリでクーデターがあったというニュースが報道されましたね。
反政府ゲリラという間違った報道
元々が勇敢で独立心の高い民族なので、強制的に一体化政策を推し進める政府と衝突することも少なくありません。
ISISやアルカイダみたいな反政府ゲリラ扱いされることも多いのですが、現地事情に詳しい人によれば、そういった報道は事実とは違っているとのことです。
2012年 マリ・トゥアレグ分離主義軍の兵士たち 出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Tuareg_people#Clans
冒頭で触れたTinariwenやBombinoも、過去にこういった動乱に巻き込まれて難民として他国へ避難していた経験を持っています。
独特の文化
トゥアレグ独特のユニークな慣習がいくつかあるのでご紹介しておきます。
彼らは宗教上はイスラム教徒ですが、信仰上には認められていないことであってもトゥアレグ社会においてのみ認められていることがいくつかあります。
トゥアレグ・ブルー
男性は独特な色調の鮮やかなブルーの民族衣装(長いローブ)にアラビアのロレンスみたいな長いターバンを頭に巻きます。
このことから別名「Blue People」とも呼ばれています。精悍そうな顔立ちをした人が多い印象です。
画像のように目を除いたほぼ顔全体を覆ってしまうことが多いので、独特な風貌です。
昭和生まれなら「月光仮面」を連想するかな^^;
とはいえこれには意味があって、砂漠の熱風や陽ざしから肌を守るとともに、悪い霊を追い払って身を守るというのを兼ねているからだとか。
ちなみに男性がこういった長いターバンを身につけるようになるのは、大人として認められてからということです。
こうやって男性は顔を隠していることが多いんですが、イスラム教徒でありながら女性は顔を隠すことはありません。
それと、女性がブルーの衣服を身につけているのはまだ見たことがありません。
女性上位の社会
トゥアレグは女系社会なので女性の権利が強い印象です。
例えば妻は夫に不満をみつけたらいつでも自由に男性を離別できます。
そして住まいや家畜といった財産はすべて妻の物になりますが、一方で男性はラクダ以外は何も持たずに実家に戻らなければならないことになっています。
女性はそのまま家に住み続けて新しい男性と再婚し、家や財産、家系を維持していきます。
さらに結婚前の若い女性であっても、自分の選んだ男性と両親公認のもとで自由に交際することが許されています。何人とでも・・・
これって近隣国のモロッコならば警察に逮捕されちゃいますよ^^;
こういったこともあって、イスラム原理主義者からも攻撃の対象にされつつあります。
アルジェリア発、注目アーティスト「ARIDEL」
前置きが長くなってしまいましたが・・・^^;
砂漠のブルースに目覚めるきっかけとなったARIDELをご紹介したいと思います(発音はたぶん「アリデル」で間違いないと思います^^;)。
デザートブルースとアメリカンブルースの繋がりを初めて意識するきっかけになったのが彼らのアルバム「Rahet Bali」を聴いてからです。
YOUTUBEのオススメ動画で偶然みつけたんですが、このアルバムの中の「Goumari」という曲を初めて聴いたときには「これってアメリカの曲では?!」と頭がパニくるほどの衝撃を受けました。
元々ブルース系が大好きで有名どころはひと通り聴いてるので耳は確かですよ^^;
実際にトゥアレグの音楽があの時代のアメリカのブルースに影響を与えたのかはわかりませんが、とにかくそっくりだったので驚きました。
謎のアーティスト
ARIDELについて調べてみたのにFACEBOOKに公式アカウントはあるものの、なぜか肝心のプロフが見当たらないという・・・
で、唯一見つけたのがSPOTIFYにちょこっと出ていた英文の簡単なプロフだけでした。
ARIDELは2009年にアルジェ出身の4人組により結成された。
トゥアレグ・ブルースにアラブ音楽、西洋のジャズやロックをmixさせた独特のサウンドを身上としている。
2011年にリリースされた1stアルバム「Rahet Bali」はトラディショナルな中にも現代風のアレンジを加えたもの。
2018年には次作「Salami」と、今までに2枚のアルバムをリリースしている。
ライブ映像も見当たらないし、謎の多い人たちとしか言えないですね^^;
アルバム「Rahet Bali」を聴いてみよう。
一言で形容するのは難しいところですが、まったりとした気分で聴きたいリラックス系の不思議な雰囲気を持ったアルバムです。
渋めの音が好きな人にオススメしたい感じです。
澄んだギターの音色が夜の砂漠の静寂の中に響き渡るような、スローナンバーの「Rahet Bali」からラストの「Harraga」まで、一気に引き込まれてしまう実に耳に心地よいサウンドなんです。とりぞうのお気に入りのナンバーをいくつかどうぞ♪
①GOUMARI
なんかちょっとアメリカ南部のまったりとしたブルースを思わせませんか?!
これを初めて聴いたときは非常に驚かされました。
②Damaa
ラクダのひづめの音を思わせるような、チャカポコしたタブラ(パーカッション)の音が何とも言えずいい味出してます。
「Damaa」とは涙のことで「信頼していた恋人の冷たい仕打ちに深く傷いた男性が、大粒の涙を流しながらその苦しみを切々と訴えている」という歌です。
これぞブルースじゃないですか^^;
ブルースの奥の深い悲しみ
しかし機会あって、ある曲の歌詞の英訳を見たときにはとてもショックを受けました。
歌われていたのはものすごく悲しい内容だったからです。
貧しさに耐えかねて故郷を出て知らない世界へきてみたが、
絶望の繰り返しで生きていることすらつらい。
頭に浮かぶのは故郷にいる家族のことばかり。
耐えきれなくなった自分は最後の給料をもらうと
逃げるように故郷に戻ってきた。
-Ana malit-
上のリフレインを延々と繰り返すだけの歌ですが、貧しさから抜け出そうとアフリカからヨーロッパへボートで密航する不法移民のことを歌っています。
「Ana malit」=「うんざりする」とか「もうたくさんだ」といった意味です。
セカンドアルバム「Salami」
前作に較べてだいぶ音があかぬけてます。
レゲエ色を取り入れたりして新しいことに挑戦してる感じです。
でもどことなくTinariwenを思わせる曲もいくつかあったりするので、彼らを意識した音作りに舵を切ったのではないかという印象を受けました。
個人的にはデビュー作の方がオリジナリティがあって好きですね。
このまま二番煎じにはならないでほしいと思ってます^^;
ちなみにARIDELのメンバーってこんな感じ↓です。ローカル感満載なリアル砂漠のブルース♪
もっと聴きたくなったら
ARIDELの他の作品は下のリンクのYOUTUBEチャンネル(公式チャンネルかは不明)で全曲聴けます。【youtube・ARIDEL♪】
ダウンロード・アルバム入手法
アルバムダウンロードはitunes storeで♪
「Rahet Bali」も「Salami」も取り扱いがあります。そうすることでアーティストのサポートにもなるのでぜひ^^;
砂漠のブルースをもっと知りたい人へ
とりぞうはいつもYOUTUBEを使ってレアな音楽の情報を集めてます。
同じジャンルの音楽が次々とオススメ動画で出てくるので、注目アーティストも見つけやすいです。
引き続きお宝アーティストを発掘したらご報告したいと思ってます。
お宝発掘にオススメなYOUTUBE動画チャンネル
下の2つは個性的でレベルの高いアーティストのライブを定期的に配信していてオススメです。
1. KEXP
アフリカをはじめ、ワールドミュージック系の注目アーティストのライブを多く配信しているアメリカ・シアトルのアート系NPO放送局の公式youtubeチャンネルです。
日本のサイケバンド「幾何学模様」も毎年出演してます。
リンクの動画は、注目のニジェールの若手アーティストMdou Moctarのものです。
彼の音楽はどちらかというとロックの要素が強いですが、電気も通ってないようなド田舎の町でお手製のギターを作ってこれだけのギタープレイを習得したってすごくないですか?!
いつもピックを使ってないみたいですが、フィンガーピッキングだけでこれだけの音を出しているのも驚異です。
2. NPR Music
アメリカの全国ラジオ局NPR(旧名National Public Radio)の音楽チャンネルです。
様々なジャンルの個性的なアーティストを迎えて「Tiny Desk Concert」という手作り感満載なミニコンサートをシリーズでやっています。
動画は2012年のTinariwenのミニ・ライブ。
上手に利用すればお宝アーティストを発掘できる♪